今月の法話

令和4年7月

「求められる人に」

 コロナ禍になり間もない頃、新型コロナ患者やその家族への差別、誹謗中傷が多数起こった。

「はやり病で死んだら罪ですか」

 これは約八百年前の法然上人への質問である。当時も同じような暴力があった。病への忌避意識から、疫病で死ねば死後も救われないという考えが広がり、感染者や遺族を苦しめた。

この質問に上人は静かにお答えになる。

「それは違います。念仏すれば往生します」

 承安(じょうあん)五年(一一七五)、浄土宗を開かれた法然上人が都で法を説かれると、多くの聴衆が集まった。その様子は国宝の絵伝に描かれている。

 しかし疫病蔓延の歴史をみれば、まさにこの時、都では天然痘が流行していた。この数か月後には、これが原因で元号が変わっている。改めて絵伝を見ると、人々の集まる様子は「三密」であり、いつ病に感染してもおかしくない状況に思えてくる。おそらく当時の人々も、集まることで感染する危険性が高まることを感じていたのであろう。

 でも、そんな不安渦巻く中だからこそ、「智慧第一」「菩薩様の生まれ変わり」と称される法然上人のもとに人々は集い、救いを求め、命がけで聴聞したのではないだろうか。

  コロナ禍で寺院を取巻く環境もずいぶん変わった。これも諸行無常だから仕方がないのかもしれない。が、祖師の姿はこれからも我々の目指すべき姿だろう。「求められる僧侶」を目指し精進し続けるしかない。

鳥取 大善寺
米村昭寛

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