今月の法話
平成27年10月
思いで人
〝本願ハ法爾ノ道理 アリガタヤ タダタダ申スバカリナリケリ〟(林 隆碩上人)
布教でお世話になると、所々で奇特なお念佛者に出合わせて頂く。半農半漁の島で、本寺と末庵で五日間の定期ご法要。五重相傳会も努めて開莚なさっている。木魚念佛の音、廻向礼拝の念佛が本堂をゆする。心地よいお寺様。三十年以上のご交誼を頂いている。
檀徒の老女MFさん。長身で白髪いつも指定席。伸ばした足は風呂敷で被ってあった。初随喜の折ちょっと言葉に詰った。即〝布教師様お説教代りましょうか!〟堂内笑いのウズこれには参った。海辺の人達は兎にかく明るい。末庵の地区の方だが本寺のお参りも欠さない。末庵の月例念佛会では〝お語り〟もなさる有名婆ちゃん。以来、懇意となった。
長男さんが漁の最中、命に関わる大けがをなさった事。大阪に就職した二男さんが仕事中に事故死なさったことを伺った。悲しい法のしぐれに逢いお念佛へと心染められたのでした。
或る折りには、40歳で子供を残し逝くご近所の奥さんのことを。我が娘に接する様に毎日毎日見舞われアミダ様を頼みなさいと共にお念佛を唱えすすめられたそうです。撫でていた足が冷たくなりこれが最後と感じ、口移しに水を・・・。その時スーッと唇から力が失せたそうです。
お別れですが、髙台にある末庵にMさんの姿がありません。約二時間の法要中、ずっと下の方から伏せ金の音が。帰りにお尋ねしたら、もうお庵までは登れないので自宅でお念佛を唱えていたとのこと。〝布教師様これが最後ですね〟その時の力強い澄切ったお顔が忘れられません。
「西に傾むく木を切れば、必ず西に倒る」
合掌
佐賀 浄圓寺
藤野良海