今月の法話
令和元年8月
尊い不思議なご縁
知恩院には、毎朝の法要にお参りをする「朝参会」という会があります。以前、会長を勤めていたMさんは、信仰心篤く、いつも一番前に正座し、布教師の説教を聴聞することを楽しみにしておられました。ある時、初めて輪番布教に出仕した地方出身の若い布教師が自分の小学生の娘の話をされました。Mさんは、その話をとても気に入り、その娘さんにと土産を託けられました。お嬢さんから可愛い礼状が届くと、喜んですぐに返事の手紙を送られました。このことがきっかけとなりMさんと少女の文通が始まり、それは十年以上、Mさんの臨終間際まで続いたのです。
Mさんは、写真でしか会ったことのない少女を孫のように想い、たくさんの昔話や京都の話、信心の話を手紙に綴りました。文通はMさんにとってこの世を生きていく楽しみの一つでありました。十二年前、米寿を迎えた後、Mさんは念仏往生を遂げられました。次の句を遺して。
念仏で いかされ生きる 米寿かな
お念仏 となえてくらし 米寿かな
少女は大人になり、絵本を出版しました。連れ合いを亡くし、ひとりぼっちの寂しい毎日を過ごしていたおばあさんが、こころ優しい近所の小学生の男の子と、夏休みの間たくさんの話をするうちに、明るく生きる元気と勇気を得ていくというストーリーであります。因と縁が働いた。不思議な尊い出会いの物語です。
お盆を迎えます。阿弥陀様のご縁、お念仏のご縁、亡き方、ご先祖様とのご縁を今一度しみじみと有難くうけとめてみませんか?
合掌
福岡 浄土寺
松尾善樹