今月の法話
令和7年8月
「終戦から80年」
風船の ごとく平和を 手放さず 黒田杏子
今年の8月15日は、終戦から80年という節目を迎えます。この日に改めて読み返してみたい一冊があります。昨年、発売された小林エリカ氏の著書、『女の子たち風船爆弾をつくる』です。
皆さんは、この本のタイトルにもなっている「風船爆弾」のことをご存じでしょうか。太平洋戦争末期に日本軍がひそかに開発した兵器です。
舞台は東京宝塚劇場。平和な時代であれば華やかなはずのこの場所で、10代の女学生によって風船爆弾がつくられます。爆弾といっても、和紙でできた気球型の爆弾で、それを偏西風に乗せてアメリカ本土まで飛ばすのです。
少女たちは、まさか自分たちが殺人兵器の製造に加担しているとは夢にも思っていませんでした。その事実を後になって知ることになるのですが、この本には少女たちの葛藤や無力感が見事に描かれています。
本を読み進めると、あることに気づきます。主語に「わたし」と「わたしたち」が多く用いられているのです。中でも印象的だった文章が、「わたしたちのいまは、もはや戦後ではない」「わたしの戦後は終わらない」。
この一文を読んだとき、戦争は遠い過去の誰かの話ではなく、今を生きる私たち自身にも関わることなのだと教えられたような気がしました。
善導大師は、記憶にはないものの、実は私たちは前の世から罪をつくっては、迷い続けている存在だ、と示されています。さらに「我が身の罪を隠すことなく懺悔し、阿弥陀仏へ帰依していきなさい」と、そんな私たちが救われる道をお説きくださっています。
終戦80年を迎えた今、私たちは、戦争の悲劇や人々の犠牲を忘れることなく、極楽に向けてお念仏を称え、「平和の風船」を飛ばし続けていきたいものです。
合掌
福岡 生往寺
安永宏史