今月の法話

令和7年9月

「じっちゃんの思い」

 お参りに伺うといつも、私を実の孫のように迎えてくれる今年100歳になった「じっちゃん」がいます。

 お経が始まると「なむあみだぶつ、ごめんなさい…、なむあみだぶつ、ごめんなさい…」と、称え続けます。

 じっちゃんは昭和20(1945)年に20歳で徴兵され、陸軍船舶工兵隊(通称・暁部隊)に入隊しました。

 約3カ月の基礎訓練を終え、司令部のある広島市に入りました。そこでの任務中だった8月6日、原爆が投下されました。

 「爆心地から約3キロ離れた場所で被爆し、大きな怪我は無く命も助かりましたが、何が起こったのか分からず、記憶が無いんです。

 気付いたら生き地獄と化した広島の街が広がっていた。焼けただれた子供の遺体、死んでいる母親の乳房を吸い続ける乳児、苦しさのあまり私を殺してと懇願する女性、水をくれとすがってきた人は数え切れません。だけど、命令のためその人たち無視して素通りするしかなかった。末期の水さえ飲ませてあげられなかった事を今でも申し訳なく思っています。

 だから、今の私に出来ることは、せめてもの償いの思いも込めて、うちの先祖の供養と一緒に、その人たちにも極楽で安らかでありますようにとお念佛を称える事なんです。

 それともう一つ、被爆体験を語るようになったのは80歳を過ぎてからだけど、これからも被爆者の思いを伝え、平和を祈り続けることなんです。」と、先日お参りに伺った際に話してくれました。

 体験の無い私が同じ思いになることは出来ませんが、じっちゃんと共に、原爆や戦争の犠牲となられた方々へ向けて、これからもお念佛を称え続けてまいりたいと改めて誓った終戦80年の夏でした。

北海道第二 大林寺
井上耕心

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