会長法話
ある所に、たいへん貧乏な夫婦がおりました。夫は、これといって自慢できるものは持っていないが、ただひとつだけ、親から譲ってもらったりっぱな金時計、これだけが唯一の財産でした。妻の方も、なにも特別によいものは持ち合わせてはいないが、ただひとつ、生まれながらに持っておる、美しい黒髪。これが自慢でした。
ある年、いよいよ結婚記念日が間近にやってくる。お互い、相手にプレゼントをしたいのだけれど、お金がなくて、プレゼントを買うことができない。そこで、夫は、妻に内緒で、自分の持っている親譲りの金時計を売り払い、妻の美しい黒髪に似あう髪飾りをプレゼントとして買ったのです。妻の方は、自分の美しい黒髪を断ち切って、それを売り払って、そして夫の金時計には鎖がなかったので、その金時計に似あう、鎖をプレゼントとして買いました。結婚記念日の当日、お互いがお互いのプレゼントを出しあったときに、ふたりはただ顔を見あわせて、涙を流すだけでした。互いにうれし涙を流し続けたのです。
夫婦とは、お互いに相手の気持ちを思いやり、そして相手の役割を十分に理解しあっていかねばならないのです。昔から「夫婦は二世」という言葉があるように、夫婦はこの世だけの契りであってはなりません。あの世まで契りを結ばせていただかねばならぬとの教えです。だから、お位牌は、二人彫りといってご夫婦の場合は二人ならべて、お戒名を彫らせていただくことが多いのです。
「先立たば おくるる人を 待ちやせん 華(はな)のうてなの なかば残して」
どちらかが先立ってゆけば、必ず極楽の蓮の上で半座開(あ)けてお待ちするというご詠歌です。縁あってこの世で結ばれたふたり、そのご縁を大切に、あの世までご縁をいただくよう、拝みあいの毎日でありたいものです。いや夫婦のみならず、家族みな互いにお念仏を称えて拝みあってゆきたいものです。
合掌