今月の法話

令和5年10月

寄り添われて歩む

 秋のお彼岸も終わり、長引いた日中の暑さからようやくさわやかな気候となってまいりましたが、今からお伝えするのは日中まだ暑さの厳かったお彼岸の出来事です。

 近くのお寺へお墓回向のお手伝いによせていただいた時のこと。

 「ご回向をお願いします」とご婦人からお声をかけられ、綺麗に清められたお墓の前でお参りをさせていただきました。目の前には滴のついたグラス。たくさんの氷が浮かべられ、あふれんばかりにお水の入ったグラスがお供えしてありました。おやっと思いました。時間がたてば溶けてしまう氷をわざわざお供えされている。お参りの後、グラスに入った氷についてお尋ねさせていただきました。若くして亡くなった父のために、お参りの際にはこうして氷を持ってきてグラス一杯のお水をお供えしていますとのこと。それを数十年と続けていらっしゃいます。

 お酒の飲めなかった父は仕事から帰ると毎日のように氷の入った水をぐいっと美味しそうに飲み干していたそうです。その時の父の笑顔やよろこぶ姿は数十年たった今でもありありと思い出されるそうです。お父様が家族の心の支えとなっていることを思うと私の心もあたたかくなりました。亡くなったお父様もそんな娘さんに寄り添ってくださっていることでありましょう。

 お仏壇の前やお墓の前で手を合わせますと、先に往かれたお方の生前のお姿が自然と思い出されます。家族の近況報告をお伝えしたり、悩みをうちあけられるお方もいるでしょう。姿は見えず、返答の声も聞こえませんが亡き方は「うんうん、そうかそうか」と耳をかたむけ、寄り添ってくださっていらっしゃいます。  阿弥陀さまは老若男女、誰であろうとも、お念仏をお称えするお方を決して見放すことはないとお誓いくださり、いつでもどこであっても南無阿弥陀仏とお称えする時、寄り添ってくださいます。お念仏をお称えして、悩みや苦しみを聞いてもらっている時、どのような表情で寄り添ってくださっているのかなと心に思うことがあります。阿弥陀さまを近くに感じてお念仏をお称えさせていただきましょう。

合掌

奈良 浄土寺
藤田宏至

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