今月の法話

令和7年3月

故人とともに

 

 

 長年つれそった夫を亡くし、三回忌を終えてしばらくたった頃でした。そのご婦人は私にこんな話しをして下さいました。

 始めの頃は玄関で音がした、カーテンが揺れた。猫がいたずらしたかな、風が吹いたかなと、頭では理解できているつもりが、もしかしたら夫が帰って来てくれたかもしれない、そう思ってしまう。お仏壇に手を合わせてお念仏をするのですが涙が出てしようがなかった。三回忌を過ぎた今でも、近所の方と一泊二泊の旅行に行って帰宅して玄関の戸を開ける。ひょっとして夫が待っていてくれたかもと思ってしまう。自宅でかたづけものをしていると、「おーい」と呼ばれた気がして思わず振り返ってしまう。そんなことがあるんです。同じ様にお仏壇に手を合わせてお念仏をするんですけど、いつの間にか涙が出てこなくなっていたことに気づいたんです。これはきっと、夫が私のことを心配して見に来てくれたんだ。そう思えたんです。だから今では、ありがとうって気持ちでお念仏ができるんです。

 ご婦人のお話しは、しみじみ私の心に染みました。理屈ではない、故人を想う人の情感の不思議さ、そしてそこにお念仏がある、等身大のありがたさを教えていただいた一時でした。

埼玉 常福寺
渡邉昭彦

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