会長法話
「急ぐべし、励むべし」
今年の冬はひとしお、寒く感ぜられます。年齢がそうさせるのでしょうか。
さて、寒苦鳥という鳥の名を聞いたことがありますか。
この鳥は、ヒマラヤに棲むという想像上の鳥です。この鳥は巣をつくらないので、夜になると寒くて耐えられないほどの苦しみを味わいます。それで「夜が明けたら、さっそく巣をつくらなくては」と心に決めるのですが、朝がきて日が照り、だんだんと暖かくなってくると、夜の厳しい寒さのことを忘れてしまい、変心して巣をつくらないのです。 その上「どうせこの世は無常だから巣なんかいらない」とあきらめてしまうのです。 夜がやってくると、寒さのため後悔して涙を流すのです。このようなことを繰り返しながら一生を終わってしまうのです。
この寒苦鳥の話は「そのうち、そのうち」と弁解しつつ日を延ばしてしまう私たちの事でもあるのです。
仏教では、この鳥を、怠けて仏法を求めようとしない人にたとえているのです。
法然上人は、「人の死の縁は無量であるから、突然、死する人もある。平生からお念仏を申して極楽(彼岸)へまいらせいただく心の準備のできている人ならば、臨終には必ず阿弥陀仏、観音菩薩、勢至菩薩様方のお迎えをいただいて往生させていただける」と教えてくださっています。
癌のため六十歳で亡くなられた阿部幸子さんの「手記」には、「癌になる前は、自分の力で生きているのだと自信過剰の私であった。癌に直面した私は、目に見えない大きな力の中で生かされてきたのだと。なぜ、今までこんな単純な真理に目を閉ざしてきたのか気づくのが遅すぎたと思うが、気づかぬまま死ぬより良かった。やっとの思いで本願(阿弥陀仏のお救い)の終バスに乗車できたのだ」と。
来月はお彼岸です。三月に入れば、少しずつ春めいて光も明るくなっていくことでしょう。来し方をふりかえり、未来に心をはせ、ひがんにむかって共々に仏道に励もうではありませんか。
願共(がんぐ)諸衆生(しょしゅじょう) 往生(おうじょう)安楽(あんらく)国(こく)