会長法話

中村 晃和 前会長 第31話

みな自分が大事だからこそ 人を思いやる

 お釈迦様ご在世のころ、ハシノク王という偉い王様がおいでになられた。ある日のことお城の物見台で横においでになるお后にむかって「お前はこの世の中で誰をいちばん愛しておるか。」とたずねられた。多分ハシノク王は「王様が一番大事で愛しています。」と、答えてくれるのもと思っていたら、お后は「それは自分の子どもも大事だし、ご主人である王様もいとしいし、大切だと思っています。」「けれども、じっと考えてみて、いよいよとおしつめていったら、正直なところ私自身が一番大事でございます。」と答えられた。
 その答えを聞いた王様は、怒られるかと思うとそうではなく「そうか・・・・・。実は私もそうだ。后、あなたも愛しておるし、自分の息子も愛しておるし、この国のあらゆる人も皆大事と思って愛しているけれども、いよいよ問い詰めたら、正直に言うと自分が大事だと思う。」といわれた。
 そのことをお二人はお釈迦様の前で告白された。
 いつもみ仏様のみ教えをいただきながら、こんな根性でよろしいのでしょうか。とお尋ねすると、お釈迦様は「それでよい。」とおっしゃった。
 「自分が一番いとしいと思って、それでよいのだ。」
 「みんな自分がお互いに一番いとしいと思っているのだから、人様にいやな思いをさせたり、人様に悲しい思いをさせたりするなよ」とおおせになられた。
 お釈迦様は、まず人間の本能ともいうべき「我愛」をみすえよ。自分の思いが満たされなかった時の心の痛み、悲しみ、苦しみをごまかすことなく見据えなさい。
 次に、それと同じく他の人々もみな自分がこの上なく愛しい、と他に目を転じなければいけない。
 されば、おのれを愛しいことを知ったなら、他のものを害してはならぬ、つまり自分が大事だからこそ、他の人を思いやれよと、教えられたのであります。

合掌

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