今月の法話

平成18年6月

出会いと別れ

人生には多くの人と出会いそして別れがある。
特に学校の卒業の時期の三月と新しい学期の四月頃が多い。
出会いと別れはいろいろな所でいろいろな形でおこる。
日本人はその「心」を大切にしてきた。茶道では「一期一会」と言っている。

拙寺は信号の付いた交差点の一角にある。
交差点の所は墓地の一角だ。
先代は「折角の交差点だ。これを使わないとは勿体ない」。と、ここに掲示板を設置した。
「掲示伝道」である。
信号待ちの人、この道路を通る人が掲示板を見ていく。
信号待ちの時間であったり通り過ぎるほんの短い時間に見てもらう。
だから長い文章は適さない。
短くて的確に表現された文章が必要だ。
先代は三十年近く続けたが体力が弱って続けられなくなった。
代わりに続けてみた。難しいものだ。
その掲示板が老朽化したのでこれを機会に止めようとも思った。
が「継続は金」だと思いなおし掲示板を新調した。

一昨年三週間ほど、近くの病院に入院をした。
主治医の先生や看護師さん達に大変お世話になった。
私が掲示板の寺の住職だと分かると「あの掲示板は誰が書く のですか」「あの文句は自分で考えるのですか」「いつも読んでいますよ」など質問を受けた。
沢山の人に読まれているのだと改めて感じた。
今年の四月半ば過ぎの夕方若い女性が尋ねてきた。
「始めてお目に掛かります。六年ほどお寺の近くの会社に勤めていました。掲示板の言葉を見て通勤しました。勇気づけられた り、励まされたりしました。五月から転勤になりました。その前にお礼を言いに来ました。」と挨拶を受けた。
沢山の人がそれぞれの気持ちで掲示板の言葉を受 け止めておられるのだ。身が引き締まる思いだった。
そして彼女の新しい出発を心から祝福した。

掲示伝道に書いた最近の言葉は「花の優しさ 根の強さ」だった。

合掌

尾張 西方寺
深谷孝玄

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