今月の法話

平成14年5月

喜足の心

「知足」という言葉があります。文字通り「足るを知る」という意味の言葉です。

衣食住で考えてみましょう。

寒さ暑さをしのぎ、見た目もこざっぱりするだけでよいのでしたら、どれだけの衣服があれば足りるでしょうか。

体を維持し、健康な生活をするためだけを考えればどれだけの食事があればよいでしょうか。

雨露をしのぎ、ある程度のプライバシーが守られるのでしたら、どれだけの住居が必要でしょうか。

そういわれればそうなのですが、やはりおしゃれな服を着たいし、おいしいものを食べたいし、広い家にも住みたいと誰もが思ってしまいます。
それは私たちには欲望という煩悩があるからなのです。

物質文明といわれる現在。
ほしいものが山ほどあり、「知足」の心は遠くに追いやられているといわざるを得ません。

法然上人はこの言葉を「喜足」と言い換えてくださいました。
「足るを知る」のではなく、「足るを喜ぶ」心を大切にするということです。

わたしはこのお言葉を「よかったことを大切にしよう」という言葉に置き換え、色々なときにお話をさせていただき、座右の銘にさせていただきております。

わたしが住職をさせていただいている寺のお檀家でひそかに「よかったおばあちゃん」と呼ばせて頂いている方がいらっしゃいました。

この方が毎月お墓参りにおいでになりましたが、お話くださる内容はよかったことばかり。

「天気がよくてよかった。」

「おじいさんの好きなお花が買えてよかっ た。」

「駅で電車がすぐ来てよかった。」

そして、最後には必ず仰いました。

「今日もお寺に来られてよかった。」

嬉しそうなお顔でお念仏をとなえていらっ しゃる姿を忘れることができません。

一日生活すればいやなことも沢山あります。
でもよかったこともやはり沢山あるのです。

そしてよかったとこを大切にすることこそ お念仏の心「お蔭様」の心です。
お蔭様という言葉を多くつかえる人生をおくりましょう。

東京 念佛院
中野隆英

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