今月の法話

平成14年8月

「盆と正月が一緒に来たような忙しさ」という言い方があるように、「お盆」は、お正月と並んで、一年の中で最も重要な時期であり、お盆に関するさまざまな行事 は、日本人の最も大切にしてきたものの一つです。

特に、身近な方に先立たれて、今年初盆(新盆)をお迎えになるお方にとっては、思いも一段と深いものがおありのことと存じます。

お盆の由来は、今からおよそ二千五百年前の釈尊在世のころにまでさかのぼります。

釈尊の十大弟子の一人、目連尊者が、餓鬼道におち、もがき苦しんでいる母親を救い出す手立てを釈尊から教えられ、そのとおりに実行したところ、たちまちにして母親を救出することができたという『盂蘭盆経』の説に基づくものです。

お盆に貫かれている主題は、亡き方々、特に父母へ孝養を尽くすことであるわけです。

親というお方は、誰にとりましても偉大な存在であり、その恩は、「山よりも高く、海よりも深い」と言われます。

目連尊者の母がそうであったように、わが子のためならば、罪を犯してまでも、わが子を守ろう、可愛いがろうとしてくださるお方が、まさに親というお方ですね。

先般ある老婦人が、わが子への思いを話してくださいました。

「私ももう九十五才になりました。
息子や娘たちが、おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれています。
しかし、いくつになっても一番気にかかり、一番心配するのは、わが子のことなんですよ。
息子が旅行に出発しますと、『どうぞ無事に帰れますように。阿弥陀さま、息子をどうかお護りください。』とお念仏をお称えします。
また、ある時は、娘が具合が悪く安静にしていると聞きますと、『できることなら私が替わってやりたいねぇ。阿弥陀さま、どうか娘のことをお願い致します。』 とまたお念仏をお称えします。
やっぱりいくつになっても、わが子はわが子なんですねぇ。
いつも一番心配し、一番大切に思うのが、息子や娘たちのことなんですよ。」

このお話を伺って、親というお方のわが子への思いは、本当に有り難く、尊く、温かく、深いものだということを改めて学ばせていただきました。

お念仏の元祖、浄土宗宗祖の法然上人は、このように おっしゃっています。

「父母に孝養を尽くし、大切にしたいと思う人は、まず父母のことを阿弥陀さまにおまかせなさいませ。(中略)阿弥陀さま、どうぞ私がお念仏を称えた功徳にお慈悲を垂れて、私の父母を極楽浄土へお迎えいただき、父母の造った罪をも減してください。と願うならば、阿弥陀さまは必ずご両親を極楽浄土へ迎え摂ってくださいますよ。」

私たちは誰でもが今は亡き方々、ご先祖さま、祖父母両親など多くの方々から、さまざまなご恩をいただいてこの世に人として生まれさせていただき、お念仏をお称えすることができる有り難いご縁を頂戴しているのです。

先立ちし方々が、わが家に帰って来られるというお盆を間近にして、今こそ数々のご恩にむくいんがためにもお念仏をお称えすることが大切です。

世間の諺では、「孝行をしたい時分に親はなし」と言 われます。
しかし、先立ちし、お父様やお母様をはじめ ご恩を頂いた方々に、ご恩にむくいる何よりのすべがあるのです。

それが、まさに法然上人のお示しくださった、お念仏をお称えして、阿弥陀さまにその大切な方々をおまかせするということなのです。
おまかせするということは、 即ち南無するということです。

お盆には、どうぞご家族そろって、先立たれた精霊を心からお迎えし、ぜひ一家揃って、お念仏をお称えするようにしていただきたいと思います。

そして、お念仏の信仰や、先立ちし方々から頂戴したご恩のこと、命のつながりなどを話し合う機会をもっていただけるならば、きっとすばらしいお盆となるに違いないと思います。

合掌

長崎 大悲寺
金子孝司

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