今月の法話

平成15年2月

皆さん、「北枕」ということばをお聞きになったことがあると思います。
「北枕」と聞いて、どんなことを感じられますか。
私は、ある中学校の修学旅行で、このようなことがあったと聞きました。
宿泊先の旅館で消灯の時間近くに女子生徒が騒いでいたので、先生が部屋へ駆けつけたのです。
すると、みんなで布団を移動していたのです。
どうして、そのようなことをしているのか、その理由を先生が尋ねてみると、どうやら事の発端は、一人の生徒が、「ねぇ、みんな、この布団、北枕に並んでいるよ。頭を北に向けて寝ることになっちゃうよ。ほら、死んだ人を寝かせる時、頭を北に向けるって言うでしょう。私の親戚が亡くなった時もそうしてあったよ。北枕なんて縁起が悪いわよ。明日、私たちのバスが事故でも起こしたら、せっかくの修学旅行が台なしよ。みんな、布団を敷き直そうよ。」と提案したことからだったそうです。
「北枕」は、不吉なものとされているようですね。
皆さんは、どうでしょう。
「北枕」にならないように注意して寝ていらっしゃるのでしょうか。
「北枕」というのは、実は仏教の開祖、お釈迦さまが臨終をお迎えになられた時のお姿なのです。
しかし、お釈迦さまがおかくれになったということは、完全なるおさとりの世界に入られた、ということで、俗にいう、不吉だ、縁起が悪いということとは全く違うわけです。
お釈迦さまが、完全なおさとりの世界に入られたことを「涅槃(ねはん)」といい、その日が二月十五日なのです。
そして、その日にお釈迦さまを追悼報恩するためにつとめる法会が涅槃会(ねはんえ)なのです。
お釈迦さまは、説法を聞く相手の方の素質や能力に応じて、ある時は理路整然と、ある時は、たくみな譬喩をもって説かれたので、八万四千と呼ばれる程、数多くの御教えがあるのです。
しかし、お釈迦さまの出世の本懐(この世にお出ましになられた本意)は、お念仏の御教えを説かれることにあったと、法然上人が明らかにしてくださっています。
では、なぜお念仏が、お釈迦さまの出世の本懐なのでしょうか。
み仏の御心は、一言で言えば、「慈悲」であります。
「慈悲」とは、み仏が私たちのことを深く思いやる心です。
楽を与えてやろう、苦を抜き去ってやろうという、やむにやまれぬ慈しみの心です。
そして、その御心は、誰かれの区別なくそそがれるものです。
そのような大いなる慈悲の御心で、全ての衆生を平等に救いとるために阿弥陀仏がお示しくださったのが、ご本願のお念仏です。
ただ南無阿弥陀仏とま心からお称えすれば、分け隔てなく、必ずすくいとってくださるのです。
お釈迦さまは、相手の請いに応じて、さまざまなご説法をされています。
しかし、お念仏は、お釈迦さま自らのご意志で、自ら説き明かされた教えなのです。
そして、阿難尊者に、お念仏を後の世まで必ず伝えよ、とお述べになっているのです。
阿弥陀仏に必ず平等にすくわれる教えだからです。
先程も記したように、二月十五日は涅槃会をつとめます。
お釈迦さまの広大な御恩にむくいるためには、お釈迦さまの出世の本懐であるお念仏にはげむことにまさることはありません。
阿弥陀さまのご本願であり、お釈迦さまの出世の本懐であるお念仏をともどもに、称え続けてまいりましょう。

同称十念

※ちなみに知恩院御影堂(大殿)に、二月十三日から十五日まで四十畳もの大きさの涅槃図がおまつりされ涅槃会がつとめられますのでぜひお参りください。

長崎 摂取院
金子孝司

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