今月の法話
夏休みの間、大勢の子供たちでにぎわった比叡山黒谷青龍寺。
今は静寂の中に虫の声が響いているころでしょう。
ここは浄土宗としてのお念仏の声が法然上人の口から初めて発せられた、原点とも言えるとても大切な霊場です。
知恩院では毎年夏休みに「おてつぎ子供奉仕団」を募集し、全国から小中学生が、2泊3日でやってきます。
1泊は知恩院で、もう1泊は青龍寺で泊まります。
私も小学生の時参加して泊まった記憶が懐かしく思い出されます。
子供心に異次元の別世界に来たような不思議な気持ちになりました。
今年13回忌を迎えたA君は、大学1年までの人生でした。
親元を離れて学生生活を始めたばかりの突然の出来事。
ご両親の心の苦しみはいかほどだったでしょうか。
お参りをする度にいつも経机の上に置かれている一冊の経本。
何気なく開いてみると、最後の余白に鉛筆でしっかりとA君の名前が書かれていました。
「和尚さん、それあいつが知恩院につれってもらったときにもろてきたんよら。あの時、帰ってきてしばらくそこへ座ってお経唱えてたのにはびっくりしたよ、それからず-っとそこに置いてあったんです」
その話を聞きながら、A君も小学生の時におてつぎ奉仕団に参加して青龍寺の異次元の世界で阿弥陀様とのランデブーに成功したのだなと感じました。
そして、ご両親にもそのことが判っていればこそ、このつらい別れを乗り越える力となったに違いありません。
『あいつはきっと阿弥陀様の極楽世界に迎えとっていただいているに違いない』
と自身に言い聞かせながらしゃべっているように受け取らせていただきました。
お釈迦様は、「人生は苦なり」とおっしゃられました。
誰しも、悩み苦しみを抱えての人生でございます。
煩悩の重みに耐えかねている者が、阿弥陀さまの大慈悲の光明と出会うことができれば、たちまちにその重みは消えて、安らぎの心をいただくことができます。
この度、知恩院布教師会は100周年を迎えるにあたり、青龍寺に月影のお歌の石碑を建立いたしました。
ご縁がございましたら、ありがたくも不思議な聖地、青龍寺におまいりいただければ結構かと存じ上げます。
つきかげのいたらぬ里はなけれども ながむるひとの心にぞすむ
(法然上人御作)
和歌山 来迎寺
榎本了示