今月の法話

平成15年10月

時雨月は念仏月

すっかり秋らしくなりました。
季節の変わり目と言いますが、陰陽説から言うと夏が陽で、冬が陰。
陽から陰に変わるこの時期は陰陽逆転の大変な時で、台風が来るのもこの季節。
被害も受けねばなりませんが、10月を時雨月とも言い、ちょうどよいときに降る雨、恵みをもたらしてくれるのもこの季節。
今年は特に九月に入ってから厳しい残暑が長く続き、私も夏バテでどうにも辛い日がありました。
しかし、「暑さ寒さも彼岸まで」の諺通り、彼岸を迎えたとたんに過ごし易くなりました。
有難い事です。
そして、稲の刈り入れが済むと今年も、田の畦に赤い絨毯をひいたように、ちゃんと彼岸花(曼珠沙華)が美しい姿を現してくれました。
曼珠沙華とは佛語のマンジュシァカの音写で。
如意花などと訳され、白色柔軟で、これを見るものはおのずから悪業を離れ心を柔軟にすると言う天界の花とされています。
赤い花を直ぐに思い浮かべますが、確かに、お檀家さんの庭には白色の曼珠沙華が咲きます。
「曼珠沙華 抱くほどとれど 母恋し」(汀女)
赤く咲き誇った曼珠沙華を見る度に、「彼岸になると不思議に咲くね」とよく申していた亡き母を思い出します。
花が浄土におわす母を思い出させてくれる。
花が浄土に思いをよせさせてくれる。
誰に教えられる訳でもなく、天候不順にも拘らず秋の彼岸に成ると必ず赤い花を咲かせます。
その不可思議なる大自然の妙を感ぜずにはおれません。
「生かされて 生きるや今日の この生命 天地の恩 限りなき恩」(平沢興)
自然の営みの中に生かされている私たち。
量り知ることの出来ない大いなる生命の中に、私たちを生かそう生かしてやろうとしてくださっているところの、大いなる仏の慈悲に手を合わさずにはおれない私達であります。
おかげ様を喜んで、お念仏の日暮を致しましょう。

滋賀 善覚寺
二橋信玄

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