今月の法話

平成16年1月

五百匹の猿

阿弥陀如来さま慈光のもと、新年をお迎えになられましたこと、先ずおよろこび申し上げます。
今年の干支は「申」歳。
佛典『摩訶僧祇律』第七に、「五百匹の猿」の説話が示されています。
昔、ハラナ国城外の森に五百匹の猿が住んでいた。
ある月夜のこと、ハンヤン樹の傍らに古井戸を猿の王が発見した。
井戸の中を覗くと水面にきれいな月が映っている。
それを見た猿の王は、「月が井戸に落ちている。この月を拾い上げて闇夜をなくし、明るい世の中にしよ
う」と。
「どうやってこの月を拾い上げるのか」と猿の家来たちが言うと、「先ずおれがこのパイヤン樹の枝につかまるから、次に身体の大きいものがおれのしっぽにつかまれ。 そしておまえたちは次次にしっぽにつかまって井戸の中へ降りていって、月に手が届いたものが月を引き上げるのだ」と、 猿の王が言う。
五百匹の猿たちは猿の王の言葉通り、お互いのしっぽにつかまり井戸に降りてゆき、水面に接した猿が 月影をつかもうと手を伸ばしたその時に、猿の重みで猿の王がつかんでいた木が折れて、五百匹の猿はもろ共に井戸の中に折り重なって落ちていった。
この説話は、天空にある本物の月と、井戸の水面に映る影の月との虚実の判定のつかない、真実の智慧のない愚かさを 示唆しているのです。
法然上人のお言葉に、「このごろのわれらは智慧の眼しいて、行法の足折れたるともがら」(浄土宗略抄)とあり、 愚かな猿を笑えない私たち。
この猿の如く無智の身である私たちは、一層に愚鈍の身を自覚して法然上人のみ教えを仰ぎ、 お念佛を申すことにより如来さまの船に乗せていただき、この娑婆の荒海を乗り越えてゆく他に道はないのです。

滋賀 西方寺
安部隆瑞

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