今月の法話

平成19年6月

先が見える

むかし、独りの老人が暮らしていました。
朝夕の野良仕事に行き来には、必ずお寺に
立ち寄り、お念仏をとなえる毎日でした。
 村の若者たちは、そんな老人を日頃から馬
鹿にしていました。
 ある日「なあ、爺さんよ、お前はその齢になって
地位も名誉も財産もない。本当につまらぬ人間だな。
爺さんを金の値にたとえるなら最低の一文銭だ」
とあざ笑います。
 老人は、「なるほど、わしはー文銭かもしれん。
それなら若い衆よ、お前さんたちはどれほどの値かな」
とたずねます。
 「俺たちの人生は前途洋々、金ぴかぴかの最高の
小判だ」との通事に老人は、「一文銭は、穴が空い
ているから先がよく見える。小判は、今の自分の
まぶしさで先が見えん。転ばぬよう気を付けてな」と
論したそうです。
 この世の輝きではなく、しっかリと往く先を見据えた
生き方こそ、浄土宗『法然上人のお念仏のみ教え』に
ほかなりません。

北海道第二 天龍寺
松岡玄龍

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