今月の法話
平成19年11月
よきかおり
一歩外に出ると、どこからともなく金木犀がかおってくる。
お釈迦さまはこんなことをおっしゃいました。
「花の香りは風に逆らいては香らず、されど良き人の香りは、風に逆らいつつも、遠きに香る」
『法句経五四』
花の香りは、風上から風下へ流れて、逆らうて香ることはない、しかし人の香りは風に逆らいつつも、すべての方に香ってくると。
華頂の山が紅葉を始めたある日、知恩院も三門前で「すみません、お坊さん。」と、やさしい声を掛けられた。その清んだ声の方へ、振り向いてみたが、誰だかわからなかった。歩きだすと「すみません。」また声が掛かった。
少し向こうに修学旅行らしき女子高生が立っている。茶パツで、目の回りを白く塗った、ガングロの今風である。その女の子が丁寧に頭を下げ、「すみません、お坊さん、記念写真を一緒に撮ってもらえませんか。」やさしい清んだ声のかけぬしは、その女子高生であった。よもやこの子がと、瞬時ながらも思った自分の至らなさを恥じ入った。ややもすると、我々は外見で判断してしまう事がある。
「どこから来たの。」
「山梨県からです。明日かえります。」「有難うございました。」
一声の中に、良き香りが含まれている。
わずか数分ながら、さわやかな秋風が、私を心地よくつつんでくれた。
滋賀 浄栄寺
鶴野重雄