今月の法話

平成22年12月

こんな時代でも

 今年もいよいよ最終の月を迎えました。 今年生まれた造語に「無縁社会」があります。仕事を失い、家を失い、そして家族まで失ってゆく人々。この国では今行方知れずの高齢者が、驚くほど大勢おいでになることが分かってきました。
親の顔をもう何十年と見ていない。生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。そんな信じられない言葉が臆面もなく飛び交う時代です。
 通夜も葬儀もせず、直接火葬場に運ばれる直葬がどんどん増えていることを聞きます。万物の霊長といわれる人の尊厳が無視されているような気がします。
 しかし先日御主人を亡くされた奥様が、
「主人が亡くなる数日前から、お爺さんや、お婆さん、また昨年亡くなった友人の名前を盛んに呼んでいた」と聞かされました。「あれはどういうことですか」といぶかしげに聞く奥さんに、「それはまさしく来迎ですよ」と教えてあげた。
 念仏を申す者には、死に臨み極楽世界より阿弥陀様と共に仏様菩薩様がお迎え即ちご来迎下さる様子が見えるのです。
そして残される遺族は、その呼ぶ声を聞くことによって、極楽の世界に往生することを確信できるのです。臨終に来迎を受け、命終に安らかに往生を遂げる。そのためにも平素からのお念仏が大切であります。

合掌

東京 戒法寺
長谷川岱潤

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