今月の法話

平成26年5月

鯉のぼりの気持ち

 屋根より高い鯉のぼり おもしろそうに泳いでる
少し前までは、五月になるとあちこちで大きな鯉のぼりが風をはらんで心地よさそうに泳いでいたのですが 近頃は住宅事情の変化もあって滅多に見かけなくなってしまいました。
昔から鯉は黄河を遡り、龍門の滝を昇りきり龍になると言い伝えられています。 この伝説にちなんで我が子も龍のように立派な人間になるようにとの親の願いがこめられた日本の風習なのです。
私達は、果たしてそうした親の思いにどれほど答えてきたのだろうか?と考えると実に恥ずかしくなってしまいます。
浄土宗には善を行い悪を止めることを仏様に誓う授戒という儀式があります。
法然上人も九条兼実公を始め後白河・後鳥羽・高倉三帝にまで授戒を授けたと伝えられています。
御念仏の信仰は、いかなる悪人でも南無阿弥陀仏と称えれば必ず救われるというものですから 授戒をして善を行い悪を止めようとする意味がないというのです。
親は子供が立派になってくれと願って鯉のぼりをあげる。しかし、子供が思いに叶わず立派になれなかったから と言って見捨てることはない、それが親心です。
だからといって子供は何の努力をしなくてもいいんでしょうか。
授戒をするのは「抑止」と呼ばれ、努力を怠ることのないように自分自身を誡めるためのものです。
出来なくって何が悪い!と開き直らず、しっかり自分をみつめて反省材料にする。それが 心の底から申すお念仏に導いてくれるのだと信じて努力いたしましょう。
「罪人なおもて往生を遂ぐ。況んや善人をや」とお説き下さった法然上人の御心に叶うように。

合掌

京都 清水寺
井上智之

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