今月の法話

平成27年6月

怨みを止む

今年は戦後70年という節目の年になります。平和が希求される中にあって、なお今日でも中東など世界の各地で憎悪の連鎖による争いが、絶えず続いています。
 終戦後の昭和26年(1951年)、戦争の終結と連合国による賠償と制裁措置を決める会議がアメリカのサンフランシスコで開かれました。ソ連が主張する分割統治や巨額の戦争賠償金という厳しい決定が予想される中、日本は会議に臨みました。
 会議の冒頭で、セイロン(現スリランカ)のジャヤワルダナ氏(後の大統領)が演説に立ちます。氏は日本に賠償を求めるどころか、お釈迦様の「怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みの息(や)むことがない。怨みをすててこそ息む。これは永遠の真理である」という『法句経』の言葉を引用して、賠償の請求を放棄したのです。この演説が会議の流れを決め、日本は分割統治や賠償金の支払いを免れることになりました。
 「怨みを捨てよ」が仏教、お釈迦様の教えであります。法然上人も九歳の時に非業の死を遂げた父君の仇を討つことなく、父君の遺言に従って出家という道に進まれ、お念仏による救いの道を開かれました。怨みを捨てたからこその、救いであったわけです。
 怨みを捨てることは、簡単な事ではありません。でも憎しみや怨みからは、何も生まれてはきません。怨みを抱えることは、苦しみを抱えることです。捨てることによって、人間の幸せがあると、お釈迦様や法然上人は教えて下さっています。そして、お念仏を申して、究極の幸せである西方極楽浄土を目指してまいりましょう。
                                      

合掌
                           

福井 浄国寺
佐野純雄

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