今月の法話
平成30年12月
親の願い・仏の姿
ある童話の物語です。
一人の狩人が林の茂みの陰に網を張った。すると一頭の大きなメス鹿がエサを探しにやって来た。鹿は勢いよく茂みをまわるなり網に引っ掛かった。
狩人は「もうじたばたせずに、あきらめるんだ。」
すると、鹿は「私はあきらめていますが、一つだけ願いを聞いてください。二匹の子鹿を産みましたが、子どもたちはまだエサもさがせません。一度帰して頂き、エサと水のあるところを教えたら、すぐに戻りますから。」
「だまそうとしてもダメだ。人間と同じようないいかげんなウソを言うな。」
「いいえ、ウソをつくのは人間だけです。」
母鹿の真剣な目を見た時、なぜか逃がしてやる気になった。
しばらくすると、遠くから母鹿の声が聞こえてきた。
幼い子鹿たちに
「一緒に来たらお前たちの命もなくなる。お前たちが助け合って生きてくれることだけが、私の願いだ。頼むから帰っておくれ。」
それを見るなり狩人はぐっと胸がつまり急にこわい顔になったかと思うと、弓に矢をつがえ大きな声でどなった。
「さっさと逃げろ。」
おどろいた鹿たちは、なにがなんだか分からず、逃げていった、という物語です。
母鹿の我が命に代えてでも我が子を守りたい、救いたいという姿。これはそのまま仏さまの心、願い、姿であると、心にいただきました。
合掌
北海道第一 長昌寺
麻上昌幸