今月の法話
思い通りにならないこの世で
私事になりますが、1年前、前日まで元気だった妻が突然死しました。絶望の中、多くの人に励まして頂いたことが生きる力となりました。しかしコロナ禍に陥り、その方たちとも会えなくなりました。思い描いていた人生と乖離したことによって、生きることに大変苦しさを感じています。皆様も思い通りにならない中でそれぞれに苦しい思いをされているのではないでしょうか?
しかし仏となられたお釈迦様は「一切皆苦」、つまり「もともとこの世は思い通りにならなくて苦しむことが当たり前なのですよ、思い通りになることは稀有なことですよ」とお示しです。「一切皆苦」の現世でどう幸せに生きていくのか、そして来世はこの苦しみの世界から離れる術を様々なアプローチでお示しくださいました。
私たちにできることは「南無阿弥陀仏」と声に出して称えることです。「助けてください、阿弥陀仏」という思いを込めて、お念仏の行をすることによって、阿弥陀様(お釈迦様の先輩の仏様)がお救いくださいます。この命が尽きれば、来世は愛する人との別れがない、争いがない等苦しみない西方極楽浄土に生まれることができます。
一方、現世では阿弥陀様が放つ慈悲の光を頂くことで、一時的に自己中心的な心が薄まります。その結果、身も心も穏やかになり、自他の苦しみを取り除き、自分にも他人にも喜びを与えることができるのです。相手に対して思いやりのある言葉や柔らかい表情を送ること等、できる範囲で他人のための行いをすることが自分の幸せにつながるのです。自分の力を必要としている人がいると信じて、或いは誰かの役に立っていると思い行動することが生きる糧となるのではないでしょうか
他人のことを考える余裕がない時は、例えば「今日も何とか生きることができた」「今日は昨日より怒る回数が減った」とまずは自分をほめていたわることにしています。この世で一日一日、命と向き合い、精一杯生きるだけで尊いのです。そのお姿を仏様や先立ちし方は喜んでくださいます。
自分自身もこの一年、癒えぬ悲しみを抱えたまま、なんとか力を出して、縁ある人の葬送、追善供養、布教活動をしてきました。ご遺族の方に感謝され温かいお言葉を頂くことによって、自分の生きる糧となりましたし、先だった妻もお浄土から喜んでくれていると信じています。
これからも現世での仏様の見守りや他者の笑顔を糧に、そして来世は苦しみのない極楽浄土に生まれ、先立ちし人と再会できることを支えとして、お念仏を申して自分も他人をも大切にして共々に生きていきましょう
合掌
兵庫 東光寺
平井隆祐